植物とストレスの関係(動けない植物の驚くべき生存戦略)- 後編

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私は株式会社キーストーンテクノロジー社長を務める岡﨑聖一です。


今回は、植物とストレスの関係(動けない植物の驚くべき生存戦略)の後編です。

では早速、具体的に幾つか植物のストレス応答について紹介します。
すべての植物は、葉の気孔から二酸化炭素を細胞内に取り込みます。しかしながら気孔を必要以上に開けてしまうと、体内の水分が空気中に蒸散してしまいます。そのため、水分が過剰に蒸散しないように気孔の開閉を厳密に制御しています。水分が十分に吸収できない環境下では、植物は二酸化炭素を取り込んで成長するより、体内の水分が外に出ないよう気孔を閉じることを選択します。雨が降らずに日照りでも作物がすぐに枯れないのは、このような植物の環境応答のよい例です。
次に、葉に含まれる葉緑体は葉の中で静止していると思われがちですが、青色光をモニターして、弱光下では葉の表側に集合して集光面積を増加させ、逆に過剰な光強度下に晒されれば葉緑体の向きを変えて逃避運動を行っています。葉緑体は葉巻のように細長い形をしています。光が弱い環境では、細胞内で表面積を広くするように並びます。逆に光が強い環境では葉緑体は受光面積が最小になるように光と平行になるように細胞壁に沿って並びます。
園芸の世界では、光は強ければ強いほど良いと思われていますが、それは誤解です。光エネルギー捕集系が吸収した光エネルギーは、光合成反応に利用される以外にも様々な反応で消費あるいは散逸されます。吸収した光エネルギー量が消費・散逸可能なエネルギー量を超える状態を強光ストレスといい、エネルギーの過剰量とエネルギー過剰状態の持続時間に伴って様々な傷害がひき起こされます。光合成生物は過剰なエネルギーを安全な形で消費・散逸するためのしくみを多数もっており、たとえば高等植物では、キサントフィルサイクルの働きで光エネルギーの一部は熱として放散されます。
地上部だけではなく、地下部の根も栄養吸収をよくするために、根の形を変えて表面積を大きくします。このように、植物の器官や細胞、細胞内小器官の形や動きを機械的に変えて、ストレスに抵抗するのが植物のストレス応答なのです。
植物は動物の運動速度に比較すれば、動かないように見えるかもしれません。でもよく観察すると、自らが根を張った場所の環境を感じて次世代に遺伝子を残すべく生きています。それはまるで眼があるのか?脳があるのか?と思ってしまうほど精巧で合理的な動けない植物の驚くべき生存戦略です。
植物は環境の変化を感じて、必要な遺伝子を発現させ、その設計図に従って必要な化合物を生合成します。しなやかに環境に適応する戦略を植物の先祖といわれるシアノバクテリア(光合成細菌)から約20億年かけて進化させてきました。そして、植物が作り出す様々な有機化合物は植物が様々な環境ストレスに対抗するだけではなく、薬草やファイトケミカルとして人間の病気治療や健康増進にも役立っています。

前回ご紹介した研究成果から、慣行農法と植物工場の栽培環境の違いが味や機能性に関わる代謝物の組成に大きく寄与していることが明らかになりました。
私はRGB(赤色、緑色、青色)LED独立制御型植物工場を前提に、未病改善効果が期待できる栄養素や機能性成分の生合成量を増加させる研究を行っています。興味のある方は、今後も弊社ホームページの告知に注目してください。